ここらでもう一度、トライアスロンのドラフティング問題について真剣に考えよう。

ここらでもう一度、トライアスロンのドラフティング問題について真剣に考えよう。

トライアーティストの竹内鉄平です。
以前、トライアスロンのドラフティング禁止レースについては、旧ブログで3回に分けて書いたことがあります。

ドラフティングの定義とルールの変遷
http://asutama.blog.jp/archives/1039752709.html

ドラフティング禁止ルールを理解する
http://asutama.blog.jp/archives/1039766461.html

ルールとモラル
http://asutama.blog.jp/archives/1039772639.html

8年ほど前の記事なので、JTUの競技規則も改訂になった部分もありますが、理念とか信念の部分は現在も全く変わっていません。

このコロナ禍で久しぶりにレースに出られる方、最近になった新たにトライアスロンを始められた方も多いので、ここらでもう一度トライアスロンのドラフティング問題についてのまとめを書いてみたいと思います。

この記事は、以下の内容について書かれています。

ドラフティング禁止ルールとは?

ドラフティングとは、「トライアスロンのバイクパートにおいて、他の競技者の後ろ走ることで空気抵抗を減らしアドバンテージを得る行為」のこと。

エリートレースはドラフティングが許可されていますが、エイジ部門のトライアスロン大会は、ドラフティング禁止ルールが適用されます。

まずはドラフティング禁止ルールについて正しく理解しておきましょう。

ドラフトゾーンは、スタンダード以下の距離の場合、前走者のバイク前輪先端から10mの範囲(ミドル~ロングは12m)です。ドラフトゾーンに入ったまま走行すること、また並走して走ることは禁止されています。

スタンダード以下の距離の場合の10mの距離間隔。

バイクの全長は約2m。スタンダード以下の距離の場合、バイクとバイクの間隔は8m(自転車4台分)以上の距離を空けることが必要となります。

バイク間の距離(8m)はバイク4台が余裕で並ぶ距離です。

前走者を追い越す場合は、ドラフトゾーンへ入ることが許されますが、追い越しは20秒以内(ミドル~ロングの場合は25秒以内)に行わなくてはいけません。
※バイクの前輪が先行する選手のバイク前輪よりも前に出た時に「追い越された」とみなします。

一方、追い越された選手はすみやかに追い越した選手のドラフトゾーンから後退し、20秒以内にゾーンから出なければいけません。20秒以上ドラフトゾーンにとどまることは、ドラフティング違反となります。

JTU競技規則より抜粋

なぜドラフティング違反をしてはいけないのか?

なぜドラフティング禁止ルールがエイジのトライアスロン大会で適用されるのか?その理由をまずは理解しておく必要があります。

理由は以下の3点に集約されます。

➀ ドラフティングによりアドバンテージを得ることで、「競技としての公平性」が損なわれるため。

➁ 選手同士が接近することにより、接触リスクが高まるという安全面から。

③ 他の競技者の力を借りることで、トライアスロンの本質である「自分一人の力で戦う」という理念から外れるため。

自分が思うに一番の理由は「競技としての公平性」が損なわれるという点です。
ルールで明確に禁止されている以上、同じ条件で競わなくては、レースの順位・タイムに意味がありません。

エリートレースは、「ドラフティングが許可されている」という点においてすべての選手が公平な条件下でレースを行っており、それを戦略的に用いることができます。

一方のエイジのレースでは、ルール違反をして、より良い順位・タイムを出したところで、それはその人の真の実力ではありません。目に見える結果(リザルト)のみで、本当の力を見ることができなくなります。

まじめにルールを守って競技をしている選手からすれば、そのレースの価値はないのと同じであり、やがてはトライアスロンに対する情熱・やる気を失ってしまうでしょう。競技人口が減れば、トライアスロン界自体の衰退に繋がります。

プロ・セミプロはもちろん、エイジの選手であっても何らかの応援・支援を受けている選手であれば、周りからドラフティングをしているという目で見られることは、絶対にあってはいけないことですし、「今だけ」「自分さえ」よければいい、というスタンスは、いつかはそれが自分に返ってくることになります。

ドラフティング禁止レースの現実

ドラフティング禁止レースの現状をみてみると、実際には多くのレースでルールが守られていないと感じる場面を見かけることがあります。

私はバイクが得意(強い)から、ドラフティング違反はしないという人でも、気づいたら後ろに一杯金魚の糞のようにトレインができていた、という経験をされた方も多いのではないでしょうか?

競技経験が浅い方など、ルールを知らずにレースに参加している方もみえるかもしれませんが、上記のルールを正しく理解して参加していたとしても、いつの間にかドラフティングの集団に巻き込まれてしまい、避けようがない状況に陥ってしまった(またはそう感じた)経験をされている方もみえるかもしれません。

日本国内のレースの多くは、その道路事情からクリテリウム形式の周回コースを採用しています。一般的な10㎞の周回コースに800台のバイクが同時にコース上を等間隔で走っていると仮定した場合、10,000m÷800人=12.5mとなります。10mのドラフトゾーンをキープして競技を行うことは、かなり難しい状況であるといえます。

また違反を取り締まるマーシャル(審判員)の数も十分ではありません。定点のマーシャルでは、ドラフトゾーンに入っている秒数をカウントすることはできないため、ドラフティングの取り締まりには、移動マーシャルが必要となりますが、コース上を走ることができる移動バイクの数は1~2台程度と限られます。

それ以前に、マーシャルの役割は安全を最優先することであり、違反を取り締まることではありません。取れる範囲で一部の人のみにペナルティを与えることは多少の抑止力にはなるでしょうが、不公平感を生み、逆にフェアなレースとは言えなってしまうというジレンマを抱えています。

もちろんドラフティングは選手だけの問題ではなく、大会運営者、マーシャル、それぞれに負うべき責任とモラルがあります。

ただ、大前提として大切なことは、レースに参加する選手一人一人が、ドラフティングはルール違反であり、フェアプレイの精神に反するということ認識した上で、選手同士が避けるための最大限の努力をすることだと思います。

ドラフティング違反が起こる原因は?

なぜドラフティング違反が起こるのか?その原因を考えてみましょう。

① ドラフティングルールを知らない。

② ルールは知っているけど、周りが皆しているから自分だけ守ると不利になるので仕方がなくしている。

③ 自分は絶対しないけど、周りがしていても自分には関係ないからみてみぬふり。

なんかこれって「イジメ」と同じような構図ですね。

①は論外ですね。レースに出るからにはルールを熟知して参加しましょう。無知は罪です。競技歴が長い方は、昔はドラフトゾーンが7m(バイク間は5m)であったため、その頃から情報がアップデートされていない方も多いように思います。

やはり②が一番多い気がします。周りがしているからという同調圧力。そのうちそれが当たり前となり、罪悪感を感じなくなっていきます。

③はルールを守っているという点では素晴らしいですが、傍観者となっていることにより、ドラフティング違反を減らすことには繋がりません。

フェアなレースをするために意識すべきこと

ドラフティング違反を避け、フェアなレースをするためには、以下のことを意識してレースに参加してください。

選手自身がマーシャル(審判員)という意識を持ち、選手同士声を掛け合い、ドラフティング違反が起こらないように注意し合うこと。

➁ 追い越しをかける際は、「抜きます」と声をかけ、明確な意思を持って、速度差をつけて一気に追い越しを試みること。追い越した後もすぐに減速せず、後ろの選手と十分距離をとってから、キープレフト走行に戻るようにすること。
※追い越してすぐにキープレフト走行に戻ることは「ブロッキング」のルール違反となります。

③ ドラフトゾーンギリギリを走行するのではなく、2m程度のマージン(余白)を持っておくこと。マージンを取っていないと、前の選手が一定の速度で走り続けてくれればよいですが、登坂や減速したタイミングなどで意図せずドラフトゾーンに侵入してしまうことになります。

一番大切であり、現状で足りていないのは、「選手同士のコミュニケーション」だと思います。

追い越しをかけるときには…「右から抜きます」
すぐ後ろにつかれたら…「離れてください」
自分より速そうであれば…「先に行ってください」

それだけでも違うはずです。
他の選手やコースレイアウト、マーシャルを批判する前にまずは自分ができることをしましょう。

ドラフティングルール違反撲滅のため、「フェアトライアスロン」ロゴを作りました。賛同していただける方は、自由に使って頂いて結構です。

ドラフティング違反は、個人間の問題ではなく、トライアスロン界全体の問題です。自分たちが愛するトライアスロン競技の健全な発展のため、この問題を自分事と捉えて、意図的なドラフティング違反は絶対にしないよう、また意図せずに巻き込まれないように、フェアでクリーンなレースをするように心がけ、トライアスロンを楽しみましょう!