どうするトライアスロン第5回「どうするスポーツイベント①」

どうするトライアスロン第5回「どうするスポーツイベント①」

トライアーティストの竹内鉄平です。
さて、今回のテーマは「どうするスポーツイベント」です。
株式会社トライアーティストは、今年の5月で12期目を迎えています。

設立当初の2012年から、トライアスロンスクール事業の他に、マラソン、トレイルラン、トライアスロンなど、市民参加型のスポーツイベント(大会)の企画運営を行ってきました。

一番最初に開催したアクアスロン大会「チャレンジアクアスロン」集客に苦戦

手探りだったスポーツイベント事業に関する知見も徐々に蓄積し、多くの失敗を繰り返しながらも、大会を統括するディレクター業の経験を積んでくることができました。

次のステップとして、その経験を一般化して、これからスポーツイベントを立ち上げたい、作りたいと考えている人に伝えていくことが求められるようになってきていると感じます。

今回は、トライアスロンという枠を越えて、スポーツイベントの「今」、そして「将来」について考えみたいと思います。

スポーツイベントを始めたきっかけ

スポーツイベント事業を始めたきっかけは、自分が好きなエンデュランス系スポーツ、特にトライアスロンを世の中に普及するためには、競技人口を増やす必要がある。

そのためには大会を開催しなくてはいけない、という気持ちからでした。多くの競技経験者上がりの大会運営者は同じような考えから始めているのではないかと思います。

当初はほぼ身内向けのイベントで、100~200人規模の大会からスタートしました。徐々に400~500人と集まるようになっていき、4年目あたりから、リレーマラソンやトレイルランの大会は800人を越えるエントリーを頂くようになっていました。

三好池で開催していた「三好四耐」(2009~2014)
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げんき~ずの宇野けんたろう君をゲストに呼んでいました。
人気大会だったトヨタの森トレイルランレース
(2012~2019)施設閉館により休止

もちろん、長年の競技経験は自分の強みとして、大会運営にも生かされていたと思います。自分が参加する立場だったらという、選手の目線から、こうあるべきだという大会の姿があったためです。

「名選手、名ディレクターにあらず」?

しかし、当時はまだ現役バリバリのアスリートであった自分は、それは時には、よりハードな方へ、よりコアな方へと志向(思考)が行ってしまうというマイナス面もあったと思います。

「名選手、名コーチにあらず」という言葉があるように、「名選手、名ディレクターにあらず」ということも往々にしてみられる落とし穴です。

南伊勢町で開催したOWS+トレイルランの「アクアクロス」。まさにコアターゲット向け。選手100名に対してスタッフ・ボランティア150名。ビジネスモデルとしては継続は難しいですね。

そして、次にぶつかった壁が、開催場所の住民や関係団体との関係性です。先に述べたように、当初はあくまで自分たちが好きだからやる、というスタンスでした。

参加人数が増えることで、施設の駐車場問題であったり、公道を使う場合は、交通規制の問題であったり、開催する地域への負担は増大します。

特にスイム・バイク・ランの3種目があり、競技コースが広範囲に及ぶトライアスロン大会においては、地元の理解と協力がなければ絶対に開催は不可能です。

公園を借りて行うリレーマラソンや、人がほとんど入ってこない山の中で行うトレイルランレースとは全く異なる膨大な調整が必要となります。

伊勢志摩ナショナルパークトレイルランレース in 南伊勢(2017~2020)

トライアスロンのエントリー費が高額になる一番の原因は、関係団体との折衝・交渉に非常に大きな時間と労力が必要とされるためです。

大会を開催、継続していくためには、開催地への有形無形のメリットをどう提示できるか?逆に、開催地への負担をどれだけ軽減できるか?が大切です。

そもそも、その地域にとってスポーツイベント自体が求められているのか?地域のためには別の形のイベントの方がフィットするのではないか?自分達(アスリート)にとって自己満足のためのイベントになってはいないか?

そういった視点を持つことの大切さを、トライアスロン大会の開催を通じて学ぶ機会をいただきました。

トライアスロンを応援する地元の方々

大会を持続するためには何が必要か?

もう一つ、持続可能な大会を運営するためには、大会の収支を考えなくてはいけません。実際、最初の数年、大会事業では、ほとんど利益は出せていませんでした。

補助金や協賛金に頼ってしまうことは諸刃の剣であり、もしそれらがなくなったら、大会の開催は不可能となります。かといって参加費のみで賄おうとすると、エントリー費は高くなり、参加者数に影響がでます。

佐布里リレーマラソン

考えてみてください。大会にかかる経費というのは、何も参加賞や保険代、レンタル機材、当日の有償スタッフ人件費のみではありません。

一つの大会を開催するには、遅くて半年前から、早いと1年前から準備に取り掛かります。何人のスタッフがどれくらいの工数をかけてその大会の準備をしているのでしょうか?その人たちはボランティアでしょうか?

伊勢志摩・里海トライアスロン大会競技説明会

もちろん、ボランティアによって構成された団体で主催・運営されている大会も中にはあるとは思います。そういった大会には頭が下がります。しかし気力・体力は年々低下していきます。

もちろん、本業の方が忙しかったり、苦しい状態で、膨大な時間と労力が必要な大会運営を無償を行うことはまず不可能です。もし赤字だったら?もし何らかの不手際により事故が起きたら?誰が責任を取るのでしょうか?

そういった理由から、やはり継続的な開催を目指すスポーツイベントにおいては、運営者はお金をきちんと受け取って、その責任の下に運営をしていくことが大事だと思います。

よく市町村行政が主催するスポーツイベントで非常に安い参加費(1000~2000円)で参加できるマラソン大会などがあります。あれは実際には税金で賄われているため、実際にかかっている経費を計算すると、そんな安い金額でできるわけがありません。

参加費を安くしないと集客できないようなイベントはそもそも求められていないわけで、行政がそういった大会を開くことは我々のようなスポーツイベント事業者にとっては営業妨害でしかないので、止めて欲しいですね。

スイムの安全を見守るライフセーバーチームの皆様

東京五輪バブルとその崩壊

2013年9月、2020年東京五輪開催が決定したことで、日本のスポーツ熱は高まり、マラソン大会やトライアスロン大会は、何度目かのブームを迎えていました。

当時から大会へのエントリー費は少しずつ値上がりしていましたが、多くの大会で定員の何倍ものエントリーが集まり、プチバブル状態でした。

トライアーティストが運営するトライアスロン大会も毎年参加者が増えていき、定員を割ることはなくなっていました。しかし、何となくスポーツ業界が浮かれすぎており、トライアスロンのみではこの先やっていけなくなるのでは?という漠然とした危機感を感じていました。

知多半島ロゲイニング in 美浜

そこでトライアスロンにこだわらず、いろいろな大会に自分自身が参加してみた結果、2016年からは、ロゲイニングのイベントを知多半島でシリーズ化してスタートさせました。

それが功を奏し、2017~2019年と当社の売り上げは順調に推移、2019年には過去最高を記録していました。

その時はまだ明確なビジョンが描けていた訳ではないですが、トライアスロン事業は当社の柱となる事業ではあるものの、トライアスロン界は既に成熟期に入っており、今後このままの成長を続けていくことは難しいだろうなと感じるようになっていました。

そして、東京オリンピックが開かれるはずだった2020年、新型コロナウイルス感染症により、世界は混乱の渦に堕とされていくことになります。当社も当然もろにその打撃を受けることになりました。コロナ禍は、スポーツイベント業界にどのような影響を与えのたか?また将来はどうなっていくのか?

長くなってきたので、一旦ここで終わりますが、続きます。